2024年01月08日
大人しく時に力強い講談師 第188回つばなれ特選会 田辺一記 2023/11/04
●田辺一記『臆病彌八郎』
初めて見る一記さん。田辺一邑先生のお弟子さん。ということは田辺一鶴先生の孫弟子で、田辺いちかさんの妹弟子。第一印象は「大人しそうな方」。まくらがたどたどしいあたりが、いかにも先月二ツ目昇進したばかりという感じ。たどたどしいけど、妙にしっかりしていて不思議な味わいがある。これが本題に入ると口調がピシッと変わり、かっこよくなる。
『臆病彌八郎』は徳川家康の家臣であった本多正信が、姉川の合戦でビビって戦いに行けなかったっていう話なんだけど、史実とはほぼ関係なさそう。それだけに滑稽味が強い話ですね。この「史実から離れている部分」こそが講談を好む大衆の望むものであり、興味深いポイントであると思う。
淡々と、しかしかっこいい語りで滑稽な展開。これがなかなかに良い。面白さがじわっと来るあたりが良い。
●三遊亭兼太郎『雛鍔』
今回はゲストで登場。相変わらず身体の軸がぶれない高座姿がいい。
あと会話の中の「呆れたようなツッコミ」の不思議なおかしみに味がある。雛鍔だとおかみさんの羊羹の切り方にツッコむシーンに現れていた。また職人が目の上の人に合わせて一生懸命丁寧に言葉を使う当たりも雰囲気があっていい。
美舟名物の打ち上げで飲んでお話したかったけど、お帰りになってしまったのが残念。
仲入り
●田辺一記『本阿弥光悦(姨捨正宗)』
本阿弥光悦は教科書に出てくるし名前くらいはみんな知ってる。本阿弥家は刀剣の鑑定・研磨・浄拭を家業にしていたが、光悦は陶芸・書・能楽に茶の湯とマルチな才能を発揮した人らしい。この演目は刀と書についてのストーリー。
なんというか、これもまた滑稽味があり、なんだかおかしいはなし。落語に直してもいいくらい。
「淡々と、しかしかっこいい語りで滑稽な展開」というのは一席目と共通している。
こういう味わいは一記さんの武器だろう。こういう演目をもっと聴いてみたいと思うし、いやいや他の武器も見てみたいと思う。
押しの強い芸人が多い中で一記さんのような存在はちょっと面白い。今後も注目するつもり。