2023年11月25日
辻講釈に意気を感じる 神田伊織 辻講釈 2023/10/07
講談の原点、辻講釈。
初体験でございました。

会場 : お茶の水アートピクニック会場「ヘブンアーティスト」として、講談の原点である屋外での口演「辻講釈」に積極的に取り組んでいる若手講談師・神田伊織さん。たまたま都合があったので行ってきた。
神田伊織『鈴弁殺し』
神田伊織『本能寺』
神田伊織『虎退治』
木戸銭 : 投げ銭
会場は「お茶の水アートピクニック」会場。 JR御茶ノ水駅のお茶の水口から聖橋口の間の商店街(つまり丸善の前の道)が線路に沿ったあたりにいろんなアート関係の屋台が並ぶ一角。
椅子4つの客席に相対する伊織さんは、インカムを着けて釈台代わりの折りたたみスタンディングデスクの後ろに立つ。
机上には小さなスピーカーと上方落語でよく使う小拍子のようなもの。張り扇の代わりに叩いて音を出す。
お祭りとはいえ、ただの道なので、客席の前を歩行者が通る。自転車も通る。なかなかの難条件。 当日風がかなり強くて、机の上に置いたスピーカーが転がっていっちゃったりして大変。そのうちスピーカーを諦めて地声に切り替えたが、正直この方がとってもよく聴けた。
伊織さん、いい声をお持ちで。
●神田伊織『鈴弁殺し』
通りがかりの人をも観客として取り込まないといけない辻講釈。ということで刺激的な演目が向いている。というわけで、お子さん客にちょっと遠慮しつつも大正・昭和初期に流行したらしい「実力猟奇講談」からの一席。なんと日本初のバラバラ殺人事件。これが面白かった。
びっくりしたのが、主役の一人が正力松太郎だったこと。
虎ノ門事件の責任を取って警視総監を辞職。読売新聞の社長となり、CIAのエージェントをやりながらテレビ・プロ野球・原子力発電などなどを次々と実現させたメディア王にして政治家だった。まあ、現在の日本の大衆社会をつくった人と言っても過言ではない。
この噺の中ではまだ警視庁のエリート官僚。
正力の後輩にあたる農商務省のエリート官僚・山田憲が金銭トラブルで豪商・鈴木弁蔵を殺してバラバラにしちゃったという、日本初のバラバラ殺人事件についての一席。
もうこれは事実としてめちゃくちゃ興味深いし、強風と通行人に手を焼きながらも伊織さんの力強い語りで十分に楽しめた。猟奇と言っても多少刺激的なくらいで、気持ち悪くない。面白い。
●神田伊織『本能寺』(リクエスト:修羅場)
ここで伊織さんは客からリクエストを募る。難しいよね、講談にリクエストって。演目がやたら多いからひとりの講談師が全部持ってるわけないし。
というわけで僕から「修羅場のあるネタ」をリクエスト。パパンと講談らしいリズムの語りが屋外で遠くに届かないかなと期待しつつ。
そしたら『本能寺』掛けてくれた。
修羅場が入ると、描写が緻密になる代わりに情報量はどうしても減っちゃうので、この『本能寺』もほんの触り。
敵に取り囲まれてさあ大変、みたいなところで終わったわけですが、ちゃんとかっこいい。やっば講談は修羅場でしょ。
修羅場が入ると、描写が緻密になる代わりに情報量はどうしても減っちゃうので、この『本能寺』もほんの触り。
敵に取り囲まれてさあ大変、みたいなところで終わったわけですが、ちゃんとかっこいい。やっば講談は修羅場でしょ。
●神田伊織『虎退治』
またもリクエストの催促。難しいってば。講談に詳しいとお客から「動物が出てくる噺」と。え、そんなのあったっけ。『狼退治』『鹿政談』とか?
と思ったら『虎退治』でした。
有名な『黒田節』に出てくる通り、名槍「天下に二ツの槍」約束通り大酒飲んで福島正則からぶん取ったのが母里太兵衛(友信)。
後に朝鮮出兵の際に虎退治に出かけて虎に襲われ、その窮地を救った後藤又兵衛(基次)がさらに譲り受けた、というかカツアゲした。という話なんだけど、史実とは大きく異なるらしい。
このように、史実と異なる部分にこそ、民衆が講談に求めるエンタテインメントの真髄がある。
面白く聴いてほしいから、史実に虚構を接ぎ木していくわけで。
だから講談を聴いたら、Wikipediaベースでもいいのでついでに史実も確かめてみると「優れた歴史フィクション」としての講談の面白さを実感できると思う。
ま、それはともかく伊織さんの後藤又兵衛、豪快な性格の悪さがいいね。なんかこう、ワクワクします。
若手ながらさまざまなアプローチで講談のさらなる普及を目指す伊織さん、その姿勢はとても頼もしい。
講談の面白さに気がつく人が、もっともっと増えてほしい。
面白いんだから。