『シェアする落語』12月の次は3月

2022年02月08日

やがて寂しき素面の追善 文字助の話/噺をしよう 2022/02/06


桂文字助師の落語が大好きだった。

よく漫談に逃げてしまって、なかなか落語をやってくれなかったけど。
トリのときはしっかり相撲噺で魅了してくれたものだった。
文字助の話噺をしよう
会場 : お江戸上野広小路亭

立川寸志『権兵衛狸』
立川キウイ『寄合酒』
立川談四楼『阿武松』

仲入り

立川寸志・立川キウイ・立川談四楼・小林のり一 座談

木戸銭3,000円(予約)


開演前、スピーカーから文字助師の声が。後で寸志さんが説明してくれたところによると、寸志さんが稽古を付けてもらったあとの会話を録音したものだという。雑談に近い芸談なのに、文字助師のきっちりと歯切れ良い口調が伝わってきた。懐かしい。

●立川寸志『権兵衛狸』

いま立川談吉さんが掛けている家元型とは少し違う型で、狸がはしゃいだりするのが新鮮。
有名な「後頭部深川」は文字助作説と左談次作説があり、寸志さんは文字助説を取ると。
家元は高座で「これは弟子の左談次のギャグ」と説明し、文字助師は「俺が左談次に教えた」と言っていたらしい。


●立川キウイ『寄合酒』

ものすごく久しぶりで、ちょっと楽しみにしていたんだけど、いやあ裏切りませんねキウイ師は。素晴らしい。

鯛を持ってきたやつに鬼ごっこの鬼をやらせる大失態。文字助直伝が台無し。

で、気づいて、戻すのね。これがちゃんと受ける。軽く苦笑いを含んだ受け方。あとで見苦しい言い訳するところまでが立川キウイ。懐かしいなあわっはっは。
で、その本領は後半の座談で発揮されることになる。

●立川談四楼『阿武松』

キウイ師失態を軽くいじってから、文字助得意中のお得意であり、また家元没後に立川左談次師が何度も繰り返して掛けていたこのネタへ。もちろん、文字助師から教わったと。
まくらに相撲小噺を挟むこともなく、サラッと。

地語りの格調では文字助師、同じく軽妙さでは左談次師の高座が好きだったけど、談四楼師の阿武松はセリフでストーリーを引っ張っていく。板橋の宿屋の亭主がいい。

仲入り



●立川寸志・立川キウイ・立川談四楼・小林のり一 座談

立川談四楼師の短編集『シャレのち曇り』や、立川談春師のエッセイ『赤めだか』さらにはTBSテレビ『爆報Theフライデー』での特集などで広く世間にも知られた文字助師であるが、その逸話の数多くは、立川談四楼師のツイートをまとめた『文字助コンフィデンシャル』に収められている。

140字の伝記文学、ぜひお読みいただきたい。
僕もずっと愛読していたので、もうそんなに知らない話はないのかなと思っていたら、この日の座談でも秘話逸話がつぎつぎと。

まずは小林のり一先生。
昭和40年の秋、高校生だったのり一先生、伝説の寄席「人形町末廣」に通い詰めていたら、前座・三升家勝松(のちの文字助師)に手招きされて楽屋に呼ばれ、三木のり平先生のご子息ということで可愛がられて、いつの間にか太鼓を叩いたり、志ん生師に稽古付けてもらうようになったと。
新宿末廣亭の額「和気満堂」を書いたのは映画監督の中山呑海。のり一先生のお祖父様。

そこから談四楼師とふたりで当時の寄席の様子などまあ貴重な話が。

そして、妻だった女性との出会いや、笑点の初代座布団運びのエピソード、北海道の仕事がなくなった話、離婚、築地での勉強会、だんだんと酒毒に侵されて、客を失い、家元からも見放され、家元死後は楽屋で酒を飲み、ステッキで前座を殴るようになり、後に立川流から脱退した理由と話が進む。
最後にはキウイ師による「誰も知らない・晩年の文字助」こういうエピソードトークはキウイ師の得意とするところ。
文字助02

個人的に一番衝撃的だったのは「桂文字助は実は落語に固執していたわけではない」というのり一先生の言葉。談四楼師も同意していた。まず人前に立ちたくて浅草に来た人だと。

だからこそ、文字助師は落語界のルールを平気で無視しても平気だったのかもしれない。弟弟子のギャラを巻き上げて高い靴を買った。真打昇進の祝儀を切らず逆に金を要求したりした。預かり弟子として拾ってくれた家元にもずいぶん逆らった。
一方で、生活保護を受けていたお礼として毎日のように近所の公園を掃除し、大金を拾っても警察に届け、持ち主が現れないとそのほとんど寄付した。
芸人の美学より、自分の美学に忠実だった。そのために多くのものを失っても、貫いた。

そして、落語への執着がそれほど強くないのに、その口跡の鮮やかさはずば抜けていた。歯をすべて失っても、文字助師の口から溢れ出る言葉は、いつも端正に粒立ち、美しかった。
『阿武松』の冒頭と、武隈との決戦の前の「櫓太鼓の言い立て」が、僕は忘れられない。

固執していなかった落語なのに、あまりにもうまかった。それが、悲劇だったのではないか。
……なんてことを考えた。いや、悲劇ではないか。

「文字助コンフィデンシャル」の中で、僕が最も好きなツイートを引用する。
自らの美学に縛られながらも、それ以外の一切から自由であろうとした落語家・桂文字助。


とても楽しくて、何度も笑い転げて、自宅に戻ると、とてつもなく寂しい。そんな落語会だった。
酒乱の鬼才を追善するのに、なぜ我々は素面でないといけないのだ。
仕方ないこととはいえ。


秋にまた開催するとのこと。その時は、ぜひ、一献。


当日の感想について、音声はこちら。


m_shike at 09:30コメント(0)立川寸志 | 生落語感想 このエントリーをはてなブックマークに追加

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