2021年01月24日

苦難の中の希望としての"主任・鯉八" 新宿末廣亭一月下席三日目 夜の部 主任:瀧川鯉八 2021/01/23


外出を控えろと言われましたが、歴史が変わりつつある気がしたので。
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会場 : 新宿末廣亭

瀧川どっと鯉『松竹梅』
瀧川鯉津『都々逸親子』
三笑亭夢丸『両泥』
瀧川鯉橋『元犬』
コント青年団 コント
三遊亭楽生『持参金』
古今亭今輔『飽食の城』
ぴろき ウクレレ漫談
三遊亭圓馬『雑俳』
桂伸治『幇間腹』

仲入り

立川吉笑『ぞおん』
宮田陽・昇 漫才
玉川太福(曲師:玉川みね子)『地べたの二人・おかず交換』
瀧川鯉昇『鰻屋』
鏡味正二郎 太神楽
瀧川鯉八『にきび』

木戸銭3,000円


●瀧川どっと鯉『松竹梅』

いい口調。気になる前座発見。

●瀧川鯉津『都々逸親子』

芸協カデンツァのリーダー。落ち着いていて安心して観ていられるが「色っぽい」というワード言い過ぎなのがやや惜しいか。

●三笑亭夢丸『両泥』

いやあ、相変わらず面白い。
泥棒二人のセリフに半端ない躍動感がある。なかなか聴けない珍しいネタをやってくれるのもこの師匠のいいところ。『思い出』とか、また聴きたいなあ。というかトリとってほしい。

●瀧川鯉橋『元犬』

口跡が綺麗すぎて噺がすーっと流れてしまうところがあったけど、この日はまさかのオチ改作でびっくりさせた。面白かった。

●コント青年団 コント

この日のハイライト一つ目。
いつもの先生生徒コントのはずが、生徒役・服部先生が先生役の青木先生の師匠(あの方です)をいじりまくり、青木先生も思い出を語りつつ、ときどき苦笑いしながら、暴走する服部先生の頭を出席簿で叩いて突っ込む(ボケなのに)ていう、コントでも漫才でもないメタな展開に。
服部先生は「もう戻れないでしょう」と試合放棄気味になるが、最後なんとかコントに戻って終了。この一連の流れがドカンドカン受けてた。
コントの間にボケツッコミが入れ替えてのメタ展開、有りです。『おれたちひょうきん族』でもやってたしね。


●三遊亭楽生『持参金』

「えー、普通に落語やります。……いやあ乱暴なコントだなあ」。あははは。
手堅い高座できっちり笑いをとってつないだ。

●古今亭今輔『飽食の城

二ツ目の頃から掛けている自作らしい。これがまあ面白い。
戦国モノとはいえ大したストーリーがない。なのに同じパターンのギャグをとんとんとんと積み重ねていくだけで笑えちゃう。お菓子の名前言ってるだけなんだよね。

●ぴろき ウクレレ漫談

ベテラン色物の安定感。初めて聴く娘さんがらみのネタが多くて楽しめた。

●三遊亭圓馬『雑俳』

冒頭、二人でお茶飲んでるだけですでに面白い。そこから先はもちろんさらに面白い。ご隠居の教養がしっかりにじみ出ているところが特にいい。重すぎず軽すぎず、寄席の落語をしっかり味あわせてくれる絶妙の高座。
このネタはやはり春風亭柳昇師を思い出します。ててとてとてと。

●桂伸治『幇間腹』

愛弟子・桂宮治さんの真打昇進を控えて、なんかもう、絶好調ですね。
ネタが面白いんじゃなくて桂伸治が面白いという。人物造形なんかもうどうだっていい。この師匠が目を細くしてニコニコ喋っていれば、それだけで面白い。自分で喋ったくすぐりがいまいちだって笑ってるんだもん。

仲入り

ここから割引になることもあり、客がどっと入ってくる。
それまで一階の座席と桟敷がほぼ満席だったが、ついに二階が開いて、なんと立ち見まで出た。席数半分とはいえ、このご時世ですからねえ、快挙ですよ。

●立川吉笑『ぞおん』

まず拍手が凄い。芸協の芝居で吉笑さんがこんなに歓迎されていることに感動する。
これに応えるように、見事に寄席サイズにまとめた鉄板ネタ『ぞおん』をキレッキレの語りでぶっつける吉笑さん。仕草も大きくのびのびと。
これがドッカンドッカン受ける。なんか泣きそうになる。
立川流の二ツ目が末廣亭のクイツキに出て、こんなに受けてる。時代が変わった瞬間を見た気がする。

●宮田陽・昇 漫才

陽先生の第一声「寒い!」。換気してますからねえ。
いつもの日本地図から、お子さんに絡めた新しい展開で再び客席は爆笑の渦。

●玉川太福(曲師:玉川みね子)『地べたの二人・おかず交換』

冒頭「鯉八師匠の芝居なので『お嬢』みね子師匠がいつもより化粧が入念」と言ってから土下座、までが多分定番なんだろう。
「関西風のこってりした感じで」と鉄板ネタ。
「もぐもぐ〜」と唸るだけで笑いが増幅していくあたりはさすが。

●瀧川鯉昇『鰻屋』

この日のハイライトその二。
いつものように無言で笑いを取ったあと
「本日は小痴楽さんの代演で伺いましたが、小痴楽さん、いま楽屋におります」
ぶはははは。
ここから展開されるまくらが面白すぎて、このまま漫談で終わるのかなあと思ったら、ちゃんと噺へ。これがまた軽くて面白い。落ちがまたすごい改作。秋葉原のうなぎって。

●鏡味正二郎 太神楽

ひとり太神楽もまたいいもんですよね。時間があまりなかったみたいだけど包丁皿回しはスリリングで場が引き締まっていい。

●瀧川鯉八『にきび』

高座返しになんと柳亭小痴楽師登場!
雑に置かれた座布団を、前座さんがきちんと整える。
主任の登場に、また拍手がすんごい。
「鯉八がみんなの憂鬱をぶっ飛ばすぜー!」と、客席をさらに煽る。
ここからのまくらは高校の学校公演ネタ、からの薬物関係ネタ。もう爆笑連発で、換気で寒いはずの客席はどんどんヒートアップ。

数多くの傑作を持つ鯉八師なので、前回(10月の昇進披露)聴いた『にきび』だったのは個人的にちょっと最初は残念な気もした(ただ、今日は『にきび』かなとは思ってた)。
しかし聴いてみると新しい発見がいくつもあり、いつも笑うところはやっぱり笑ってしまって、とても楽しい。ばあちゃんの台詞の調子一つとっても何パターンもあり、緻密に作ってあるんだよなあと改めて。

噺が見事に下げて、客席に大満足の空気が流れる中で。
一度途中まで下がった緞帳が再び上がり、鯉八師は、小痴楽師・吉笑さんを呼びだし、さらに鯉昇師までお呼びしてしまう。
まずは顔つけされているのにここまで出演していない小痴楽師の公開謝罪。
「お客さんに言いたい。誰のおかげで鯉昇が聴けたと思ってんだ!」
(ご家族が体調を崩されたので、検査結果が出るまで大事を取ったとのこと)。

そして吉笑さん芸協芝居デビューをお祝い。『幸福洗脳』の服を着てたので『シバハマラジオ』リスナーはニヤニヤしたことだろう。
最後は鯉昇師に鯉八師を励ましていただいての贅沢なお開きとなった。


落語協会で感染者が次々と発生し、鈴本・浅草・池袋が休席となったこの日。
「こんなときにいらしてくれる皆さんは、寄席の救世主です」と鯉八師は言ってくれた。
しかしその称号は鯉八師ご本人にお返ししたい。
お年寄りがなかなか外出できず、寄席の動員がめっきり減る中で主任を任され、見事に立ち見が出るまで客を呼んだんだから。

成金・深夜寄席・ソーゾーシーなどの様々な活動を通じて、鯉八師・小痴楽師・吉笑さん・太福さんたち若手が育ててきたお客さんが、ここぞとばかりに末廣亭に駆けつけたのだ。

こんな寄席大ピンチのなかで、主任:瀧川鯉八が見事に期待に応えている。頼もしいことに。

ここ、1〜2年の間で、東京寄席のトリはかなり若返っている。
落語協会では文菊師・こみち師・馬るこ師といったTENメンバーやわさび師、芸協では小痴楽師、伯山先生がちゃんと主任として客を集めている。
そして今回、鯉八師の快挙。

さらにこれから、芸協では桂宮治さんを始めとする成金世代が次々と真打昇進し、落語協会の3月昇進5人も強力メンバーだ。
彼ら若手真打が引っ張る番組で新しい客を呼び込めば、ベテランもまた輝く。

寄席も落語会も中止・休席が相次ぐなど、落語界のピンチは相変わらず続いている。
そんな厳しい状態のなかで、瀧川鯉八が希望を見せてくれた。

コロナが終息したら、落語はもっともっと、面白くなるかもよ。
いや、面白くなるよ。
だからそれまで、なんとか凌ごう。

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m_shike at 21:14コメント(4)落語 | 生落語感想 このエントリーをはてなブックマークに追加

コメント一覧

1. Posted by ますめっど   2021年01月26日 09:21
末廣亭の会長の「圓楽一門と立川流と一緒になって…」の発言から10年、宮治・伯山が前座から二ツ目に、その兄貴分の鯉八さんは二ツ目になってまだ浅い頃。
歌丸会長が「ウチでなんとかする」と言い切った。
歌丸会長に見せてあげたいですな。
2. Posted by 4k   2021年01月26日 09:40
>>1
コメントありがとうございます。
ああ、もう10年ですか。早いなあ。
3. Posted by ぽかぽか   2021年01月27日 23:36
この日、わたしも会場にいました。あの日の盛り上がりをありありと思い出して、また余韻に浸ってしまいました……。
素敵な記事を、ありがとうございます!!
4. Posted by 4k   2021年01月28日 00:34
>>3
コメントありがとうございます!
凄かったですよねえ。
いいお客さんが集まって芸人もどんどんボルテージ上げて、まさに歴史的な一夜でした。忘れることはないと思います。

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