2020年09月05日
サプライズとファンタジーの一夜 三遊亭わん丈と立川かしめなのに完全オフライン二人会 2020/09/03
うーん。濃い。素晴らしい一夜だった。

会場 : 江戸東京博物館 小ホール「落語生配信で世話になったかしめさんのために、わん丈さんがオフライン限定で開催する会」として急遽始まったこの企画、実はちょっと仕掛けがありまして。
19:15開演
柳亭市松『たらちね』
立川かしめ『つる』
三遊亭わん丈『紙入れ』
わん丈 かしめ トーク
仲入り
三遊亭わん丈『イメージダウン』
立川かしめ『絵兎(えと)』
木戸銭2,500円
予約を入れたあとに、予約した客全員にわん丈さんからメール連絡があり「かしめさんに感謝を込めてサプライズを仕掛けたいので協力して欲しい」と。
会場に行ってみると、段取り通りわん丈さんご自身が受付をやってる。
初めてのことだったそうだ。
木戸銭と引き換えに、怪しげなものが配られた。
二番太鼓に被せる形で(これちょっと珍しい)開演前のアナウンスもわん丈さん。
「本日は小朝師匠・談春師匠に倣いまして、客席の照明を落とさせていただきます」とかなんとか。
●柳亭市松『たらちね』
途中ちょっと詰まったけど、声は出ているので、良し。●立川かしめ『つる』
事前の段取り通り、暗い客席にこっそりダボシャツ姿のわん丈さんが登場。出囃子とともに全ての客がスタンバイに入り、顔を伏せる。
かしめさんが入ってくる。
他の客に対して怒っている客の一人、という体で、わん丈さんが叫ぶ。
「暗いからってマスクしてないだろ!前座さん、明かり上げて確認したほうがいいですよ!」
客電が点いて明るくなり、すべての客が顔を上げると、

全員がこんな「マスク」をつけているという。
……流石に驚いていましたね、かしめさん。
様子はこちらで。
精神状態を整えるのにちょっと時間がかかったけど、気を取り直して「わん丈兄さんに初めてお目にかかったときに掛けたネタをやります」と入った噺が素晴らしかった。
こんなに面白い『つる』はほんと久しぶり。
「おしりがかたい」「おつるが出てくる」などギミックがいっぱい突っ込まれているのに、流れが全く澱まないところが素晴らしい。
おっとっと、これ以上ネタ割りたくない。機会があったらぜひ聴いて、としておきたい。
●三遊亭わん丈『紙入れ』
仕掛けが成功してホッとして、いい感じにリラックス。この日は三遊亭圓生師匠の誕生日で、それにちなんだ小道具が一つ。「久しぶりにやります」と多くの落語家が手掛けるこのネタへ。わん丈さんの語り口はいつにも増してキレッキレ。さらに、とある仕掛け(ハメモノ、とだけ書いておく)がぴったり決まってもう怖いくらい。旦那のキャラがまた独特でこれがまたいい。
仕掛けたことが全て噛み合っていた。
いつも面白いわん丈さんではあるが、その中でもベスト3に入る高座だと思った。並の真打じゃまるで敵わないよ、こりゃ。
●わん丈 かしめ トーク
まずはわん丈さんからかしめさんにサプライズのお詫び。かしめさんは嬉しかったと。そしてお互いに3つずつ質問を出すという趣向。


こんな危ない話ブログに書けるかよ!!と爆笑しながら聴いていたので、内容全然覚えていません。
なんか広告会社時代のかしめさんの話とか、そのころかしめさんが知り合った林家木りんさんの話とか、新作落語の作り方とか、襲名の話とか、とかとか。
仲入り
この時点で9時ちょっと前。満足感高いわー。●三遊亭わん丈『イメージダウン』
「かしめさんに捧げる新作ネタおろし」。圓生とおなじ当日9/3に生まれたのが、なんとドラえもんなんだそうで、広告会社とドラえもんが出てくる噺。テレビでは出来ないけど独演会なら大丈夫なくらいの危険度で、相当に異常なシチュエーションのなのに生き生きと軽快に噺が進むので、自然に巻き込まれてしまった。
ちょっと散らかっているところを整えたら、いくらでも笑いが取れそうなネタと見た。
●立川かしめ『絵兎』(作 ナツノカモ)
かしめさんも新作に。若い絵師のところに、彼の描いたを買った娘が、絵についての苦情を言いにやってくる……。おっとっと、あらすじなんて書いちゃいけない。
ちょっと奇妙で、とてもファンタジックな世界だ。淡々とした語りなのに、心はしっかりと掴まれてしまう。
人物、特に絵師の描写が素晴らしい。こんなかしめさんは見たことがない。こんな事ができる人だったのか。
絵師の父親である天才絵師が現れることで、急展開する後半。
「なんだか水墨画みたいな、でもマグリットの絵みたいな感覚の落語だな」と思いながら、さらに作品世界に没入する。ちょっと涙も流れる。
落ちは思い切り落語的にまとめて見事な着地。ここはかしめさんの工夫だそうだ。
面白かった。そして感動的だった。
優れた演劇を観たときの感触に近かった。しかし演劇でこの噺を再現するのはほぼ無理だ。落語でしか出来ない(※)。ということで、これは正真正銘の「新しい落語」なのだ。
※あえていうと、講談として演じることはできるかもしれない。
間違いない。これは名作であり、かしめさんは見事にこの名作を自分のものにしている。
しか、本人はまだ納得していない。
三遊亭わん丈と立川かしめなのにん完全オフライン落語会ご来場ありがとうございましたー!入門前からのご縁のわん丈兄と共演出来て嬉しかったです。まさかサプライズまであるとは…。流石兄さん。
— 立川かしめ 11/25(水)昇進披露! (@tatekawakim) September 3, 2020
絵兎ver2.1はまだまだ改良の余地がありそう。しかもver2.0のほうがスッキリしていた気がする。むむむ。 pic.twitter.com/kNs4vreWMe
ここから更に完成度を上げていくのだろう。
で、終演後、鈍い鈍い僕はやっと気がついた。
この噺の作者は、ナツノカモ だっ!
ナツノカモさん。元・立川春吾。
立川吉笑『桜の男の子』『明晰夢』
立川談吉『お化けの気持ち』
などなど、多くの名作を仲間に託して、自らは惜しまれつつ立川流を去った男。
いまはナツノカモ低温劇団を率いて、舞台に文筆に活躍中。
その辺の事情については、こちらをお読みいただきたい。
マグリットが出てくるシーンがねえ、いいんですよ。
思いつきを書いておくと、このネタ、わん丈さんにも似合いそうな気がする。やってくんないかなあ。
張り出しはちょっと違っていて、

本当はこの演目『絵兎』。「えと」と読むらしい。
そうでしたか!原本の要素は残ってますが、たぶんラストのガラッと空気感が変わる(と予想される)部分がかしめ君オリジナルですー。
— ナツノカモ🦆『着物を脱いだ渡り鳥』亜紀書房webあき地 (@natsunokamo) September 3, 2020
というわけで、わん丈さんが珍しく自分で企画運営したこの会、最初から最後までもう、めちゃくちゃに楽しませていただいた。
この二人の組み合わせはとてもいい。
できれば『桂宮治vs立川吉笑』みたいに、定期的に会をやってもらえないだろうか。
土日だったら受付手伝ってもいいよ。マジで。
追記 立川春吾廃業について、過去記事。
あとこれ。