2018年03月31日

追悼 立川左談次

●鼠穴のヒザ
2011年11月、家元・立川談志が亡くなられた直後、立川談吉さんの二ツ目昇進披露の会があった。

春樹→談修→キウイ→談笑 仲入り 左談次→談吉  という顔付けを考えたのは談吉さん自身。

前座終わったばかりの身分でベテランの左談次師にヒザをお願いする大胆な布陣。

左談次師はいつもの通り、家元死去報道をネタにして「なんで三平のところに聞きに行くのか」「三枝さん、泣きすぎです」と客を沸かせた後に、
「談吉君は今日『鼠穴』をやります。

「僕が鼠穴やっていいんですかねえ」と本人がまだ迷っているので、ここで発表してあげました」

「ご存知のとおり家元の得意ネタです。家元の(高座)と「こーんな落差」をお楽しみください」。
軽ーく、しっかりと談吉さんの背中を押した。
トリの談吉さんは、ファイティングスピリッツ溢れる、それはそれは熱い『鼠穴』を聴かせてくれた。

僕はこの時、左談次師が談吉さんのことを預かり弟子してくれないかなあと、ひそかに思っていた。
その通りになった時には本当に心から嬉しかった。


●メッセージをいただいたこと
調べてみたら2012年のことだ。こんなことがあった。

家元亡き後の立川流一門会の広報活動に関して、ちょっと思うところがあったので、お節介と思いつつメモをまとめ、「何かのご参考になれば」と立川談四楼師匠にお渡しした。

お渡しした後にすっかり忘れてしまっていた。

1年以上経過したある日、ふとmixiにログインしてみた。

メッセージが届いていた、なんと、立川左談次師匠からだった。
さだやんさんとのメッセージ

このメッセージ、いただいてからたぶん1年は放置していたと思う。

ぶったまげて、慌ててお返事を書いた。
読まれたかどうかは、分からない。

左談次師匠というと、どうしても「軽くてふわふわ、かっこいい」というイメージが先行してしまうが、実はこのように、家元亡き後の立川流一門会のことを真剣に考えていたのだと思う。
でも「真剣」を決して表に出さないのが、左談次師のスタイルだった。

このスタイルのことを、僕は「江戸の風」と呼びたい。



●揺れ続ける 家元と左談次師
家元・立川談志が「落語とは業の肯定である」と仰っていたのは、多くの人が知ってる話。
さらに「イリュージョン」、晩年には「江戸の風」、これもファンなら知っている。

江戸の風、は著書を読んでもあんまりよくわからないが、ここではあえて「江戸前」「江戸っ子気質」のことにしておく。

でね。

「業の肯定」と「江戸の風」て、なんか相反してないですか?
矛盾してないですか?

江戸っ子としてのスタイルを遵守したら、家元がいうところの「業」は肯定できないのでは?
『三方一両損』業を肯定するなら、拾った金、貰っちゃうんじゃないの?
(もっとも「かっこつけたい」というのも業ではあると思うけど。これは相反しない)

んで。
んで。

 じゃあ落語って何なんだっていうと、
「業」と「江戸前」の間、
「欲望」と、それを抑えつける「スタイル」の間で、

揺れ動く人間を扱うものなのかなあと。
談志師匠、晩年の高座は、声がどんどん出なくなりながらも、激しい生への執着が見えた。それはまさしく「業の肯定」だった。

左談次師匠、最後の高座は、やはりほとんど声か出ないにもかかわらず、あくまで軽く、楽しそうで、トリの立川寸志さんに無茶ぶりをしてさらっと降りた。
それはまさしくスタイリッシュで「江戸前」だった。


談志師匠の戒名「立川雲黒斎家元勝手居士」。
左談次師匠の戒名 なし。(あえていえば「立川左談次」)。

亡き後も、僕は立川左談次に憧れ続けながら、生きていくのだと思う。

立川左談次師匠、本当にありがとうございました。


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m_shike at 22:00コメント(2)落語  このエントリーをはてなブックマークに追加

コメント一覧

1. Posted by ますめっど   2018年04月01日 15:22
左談次師匠、いい意味でやる気のない感じがしていた方。若い時なんか特に。変にやる気を出すと「えっ、左談次が」みたいに言われていた記憶が。
談吉さんがついてから、注目度が上がった感じ。 逆のような言われ方をされてるかもしれませんが、幸福を連れてくる福の神なのかもしれない。
2. Posted by 4k   2018年04月01日 16:38
@ますめっどさん
立川流ファンのなかでは人気の高かった左談次師を、より幅広い客の前に引っ張り出したのはサンキュータツオ先生であり、この事には心から感謝しています。

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