2019年12月27日

落語の魅力はなんですか?という質問に回答してみた。


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Quoraに書いたものを


若干整えて転載。



落語は非常に複雑な要素を持つ芸能なので、その魅力について説明するには最低でも本1冊以上の文章が必要です。

またおそらく、人によって魅力として感じるところも違うはずです。

そもそも、そんなこと知らないほうが落語が楽しめるんじゃないか、という疑念もあります。

……ということを踏まえた上で、あくまで魅力の「一部」について書いてみます。

ライブ
東京在宅・在勤であれば「最も簡単に体験できるライブ」が落語です。

都内4軒の寄席は年末の数日を除きほぼ毎日のように昼夜興行を行い、正月などの一部を除き、行けばまあ入れます。そこには落語家がいて、下座さんと呼ばれる三味線の師匠がいて、前座が叩く太鼓が入り、外とは全く違う、ゆるーい空気が漂っています。

寄席以外にも大きなホールで開催されるホール落語。数十人入れは満員になる小会場・飲食店などで開催される地域寄席、さらに学校寄席、会社や老人会などのクローズドなイベントなど、都内ではもうそこら中に落語があります。

大阪にも寄席があり、東京ほどではないにしても様々な落語会が開催されています。地方都市でも、よく見ると東京より豪華なメンバーの落語会を開催したりしています。

これらすべてが「ライブ」です。

様々なコミュニケーションがネットにシフトしていく中で、ライブの価値はますます上がっていると思います。人々は、いま、目の前にいる落語家が喋るのを聴きに行くのです。

気軽にライブを楽しむことができる、これが落語の大きな魅力です。


音楽性
落語は歌です。立川談志は「リズムとメロディ」と表現しました。

落語は会話シーンの多い芸ですが、現実の人間はあんなふうに喋りません。あくまで聴きやすさを優先し、心地よいリズムとメロディで語ります。
だから、多少わかんない言葉が出てきても楽しめます。洋楽を聴くようなもんです。

リズムとメロディの心地よさ。これも落語の魅力です。


イマジネーション
このライブ空間においては、落語家は客の想像を喚起させるために語ります。その語り口は音楽的に聴き心地がよく、客はそれゆえに落語に浸ります。客ひとりひとりの頭の中には落語家が語る一つの世界が生成されます。

映画においては映像はスクリーンの上にありますが、落語では客の頭の中にあります。堀井憲一郎氏はこれを「集団トリップ」と読んでいます。

落ち(サゲ)は想像の世界から現実の世界に戻る合図です。だから大抵の落語はサゲで何も解決していません。他の大衆芸能では悪者がやっつけられて一件落着する。ところが殆どの落語のサゲは解決しない。ストンと終わる。

落語によって、客は「ここではない別の世界」に自分を連れて行くことができます。それも自らのイマジネーションで。これも落語の魅力です。

コミュニケーション
落語はコンテンツでありながらコミュニケーションです。客と落語家の双方向の交流です。

落語家は客の脳内に上手くイメージか作れるように、まず客の様子、その日どんな落語を聴いたか(それまでにどんなネタが掛かったかネタ帳に記録してあります)などを総合的に判断し、ネタを選び、まくらを振り、噺を伸ばしたり縮めたりアドリブを交えたりしながら、さらに客の反応を見ながら噺をコントロールします。客はそれに笑いを中心とした反応で答えます。

良い落語は、良い落語家と、良い客によって創られます。知らずしらず落語に「参加」できる。これも落語の魅力です。


ノスタルジー
これは広瀬和生氏がポッドキャストでちらっと仰っていたことです。自分なりに膨らましてみます。

落語家はなぜ着物で出てくるのか。落語が芸能として確立したのは明治中期から大正期で、社会はすでに西洋化が進行しています。それでも落語家は着物を着て出てきて、江戸が舞台の噺をする。これは江戸時代へのノスタルジアです。

ノスタルジア故に、古典落語の中に出てくる「江戸」はあくまで架空の存在です。飢饉も、地震も、津波も、病気の大流行も出てこない。でも火事は出てくる。落語になりやすいから。そんな「落語にしかない江戸」です。

では現代を扱った新作落語はどうかと言うと、舞台は現代でも、登場人物は大抵の場合「落語にしかない江戸」にいそうな人たちなのです。むしろ現代人をリアルに描けば描くほど、江戸っぽくなります。実は人間はそんなに進化していないですから。

ノスタルジーに浸る。これも落語の魅力です。

人間のダメさを許容する

では「落語に出てくる人」とは、どういう人か。

簡単に言うとダメなところがある人です。ほとんどの落語において核となっているのは「失敗」です。落語は失敗カタログです。なんと帝(天皇)まで失敗します(はてなの茶碗)。

落語は「人間は失敗するもの、大したことないもの、それゆえに可愛いもの」であると伝えてくれます。客は落語によって、そのダメさを赦してもらえるのです。

赦してもらえる、これも落語の魅力です。




で、こんなの読んで落語聴きたくなりました?
ならないですよね。
だから最初に言ったんですよ。

落語のような体験型のコンテンツはまずは先に体験して、その後で知識を取得したほうがいいのですよ。

落語というジャンルは大変に細分化していて「映画」と同じくらいの幅があります。アクションもドラマもコメディもSFもドキュメンタリーも「映画」ですよね。これと同じくらい、いろんな落語があります。

なので、聴いてみて面白くなくても、とりあえず三回は試してみてください。三回生で聴いてダメだったら向いてないかもしれません。
面白いと思ったら、疑問なところをネット検索してみましょう。そこからあなたの「落語の魅力」が見つかります。


m_shike at 21:30コメント(2)落語  このエントリーをはてなブックマークに追加

コメント一覧

1. Posted by ますめっど   2019年12月28日 18:31
落語に出会った中学時代、東京在住だったら…
さすがに寄席通いとか出来なかったですからね。
入門しようとか思うほど、距離が近くなかったですね。
2. Posted by 4k   2019年12月29日 15:26
らくごカフェの青木さんなんか小学生の頃から通っていたそうで、羨ましいです。

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