2013年10月19日

鯉八ラディカリズム炸裂 両国エンチョウ寄席 博士に聞け 講師瀧川鯉八 2013/10/16


瀧川鯉八は鬼才である。
みんながイメージする「落語」から遥か遠いところから「落語」の本質に切り込んでくる。

この日は「講師」ということで、そうした鯉八のラディカル(根源的)な部分が大きくクローズアップされる可能性があると判断し、無理を押して出掛けた。

受付で頂いたバッジがイカすぜ。『暴れ牛奇譚』知らない人には何だか分かんないけどな。
この会の主宰者・三遊亭好の助さんが作ったらしい。
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●三遊亭楽天 『平林』
●瀧川鯉八 『暴れ牛奇譚』
●瀧川鯉八・三遊亭楽生・三遊亭好の助・柳亭小痴楽 「鯉八先生による講義「博士に聞け!」『(生徒:楽生、好の助、楽生)」

仲入り

●瀧川鯉八『暴れ牛奇譚』



●三遊亭楽天 『平林』
途中からなのでよくわかんなかったけど普通に前座さんだったと思います。


●瀧川鯉八 『暴れ牛奇譚』
この噺を聴くのは何度目になるのかなあ。今回はディスカバリーチャンネルのインタビュー番組から入る完全版。こっちもほぼ一語一句記憶してるから分かるんだけど、まったく変えていない。工夫していないのではない。ブレていないのだ。ウケていたのに本人は不満だったらしく、落ちのあと「芝浜というお噺でした」と降りた。この破れかぶれの降り方と客席とのギャップは以前浅草演芸ホールでも観たけど、実は鯉八落語の現在を示しているのだな。


一度幕を閉めて。がたがた。また幕が開いて。


瀧川鯉八・三遊亭楽生・三遊亭好の助・柳亭小痴楽 「鯉八先生による講義「博士に聞け!」『(生徒:楽生、好の助、楽生)」

錆びついた汚いビジネス机を教壇にして、鯉八先生はぱっつんぱっつんの白衣姿。その前に生徒として、小痴楽さん・好の助さん・楽生師が椅子に座って。

鯉八さんはさっきの『暴れ牛奇譚』が受けなかったとぼやき、前座は客全員に『暴れ牛奇譚』台本コピーを配る。時に鋭く、時に外れる好の助さんの質問に対して、8割の冗談と2割の本音で答える。そこにまとめに入る小痴楽さん。

トークの内容はともかく、長すぎ。1時間28分ですよ?
前半は鯉八さんが「講義」して、後半は質問で1時間、と決めておけばここまでダラダラしなかったはず。
台本をきちっと決めてきちっと演じる鯉八さんはもともとフリートークに強くないが、誰かが仕切ってくれれば面白くしゃべってくれるのだから、そういう構成にしたかったなー。

とはいえ、非常に貴重な噺を聴けたのは確か。

・噺を作るきっかけは不快感。『暴れ牛奇譚』の場合、30歳になってしまって精神的に不安定になり、ブスが嫌いでその憎悪を感じて書いた。タミコは僕(つまり自己嫌悪ってことか?)。レイちゃんは宮治さん、じゃなく「て世の中の充実クラブさん」たち。

・ブスの噺は『徳ちゃん』『持参金』などがあるがブスの描き方が甘い。ほんとのブスは顔じゃない。タミコは自分では「中の上」と思っているが「中の下」くらい、そして心がブス。ということ。→あとでいったん否定。

・あとで気が付いてみたら自分の落語に出てくる登場人物は僕だった。
 
・落語を作る上で人間観察はしない。疲れる。暴力が嫌いで喧嘩を見るとぞわっとする、泣きたくなる。そんな感じで一瞬(不快感で)ぞわっとする。その翌日にその不快感を覚えているときノートに書き留める。これが落語になる。
(これさっきの志の春さんの話と同じ)

嫌なことは引っかかりあるし、みんな嫌なことがあるから共感されるかなあと思ったら、みんないい噺が聴きたい、しかもあんまり脳みそ使いたくないみたいで、売れない。

・『暴れ牛奇譚』は長老からできた。いや『野菊の墓』を呼んでタミコという名前を決めたかな。

・牛の上のタミコは全てをあきらめている状態

・オチ分からないと言われる(好の助「このオチは凄いと思った」)

・ほんとは僕の高座は一年に一回くらいでいい

(24分。このあたりから話題に困りはじめ、客から質問を集めようとする)

・4K質問「所作はどうやってつけていくのか、膝の使い方が独特だと思うが」→「勝手に動いてしまう。なんか手が震えてるらしい。膝いいですか。あ、たしかに『やぶのなか』はヒザですね」「首が曲がっているので所作がうまくできない。そのせいか」
 
・師匠(瀧川鯉昇師)はいいところだけ言う。『わきまえる男』『雨傘和尚』は褒めてくれた。師匠に『暴れ牛奇譚』やってほしい。やったら面白いと思う。

・『暴れ牛』の序盤は師匠か小三治師匠がやったら面白い。自分がやるとうけない。タミコが出てくるまでの弓を引いてるいる状態なのでそれでもいいのかなと

・宮治さんの『暴れ牛奇譚』受けなかったとの話だが(客席から「そんなことなかった」)、宮治さんのほうが面白いといわれたらいたたまれない。 

・(質問が出てこないので困りはじめる)

・新人演芸大賞(2011) 大阪で700人くらい客がいて 全然受けなかった。でもある人から他の人は覚えてないけど君が滑ったのは覚えていると言われた。

・小痴楽「おしっこしてきていいですか」

・女性客から質問「(所作に)上下だけじゃなくていくつもの次元があるみたいな」→「いや首が曲がっているからうまくいかないだけ」  「映画で言うフォーカスを変えるみたいなところがある」 →「いやほんとは駄目ですよね膝動かしちゃ。僕こうやって褒めてもらって否定するの好きなんですよ。めんどくさい男なんです」

・女性客から「噂を聴いてやってきたけど評判通り面白い。人間性も面白い」

・僕いろんな声を聴きたいです

・男性客から「サゲの意味は?」→「聴かれちゃダメですよね お客さんが好きなようにとってくれればいいんですが、タミコのくだりはけっきょくなんでもなかった(以下ネタばらしになるので略)あ、次元が違うってそういうことか。ま、皆様の時間を無駄にして申し訳なかったというか」

・男性客から「要は噺はどうでもいい、落語を破壊するアヴァンギャルドだ。だからなんでこのオチが分からないのか、分からない」→「ありがとうございます」 

・一回前座の頃に小三治師匠に(怖いので略)

・高座の八割は滑っている

・小痴楽「笑う太鼓が忘れられない。良くできている。びっくりした。でも受けなかったし」

・「 古典もできるけど」小痴楽「出来心面白い」→「さらってないから」

 ・皆さん質問してほしい、満たされない。

・真打になったらすぐ弟子が欲しい。箔つけたい。賞は取れない。出ないで文句言うのはいけないから出るけど取れない。

・一般受けする落語を作る能力がない。『暴れ牛が攻めてくるというシチュエーションが解りにくい。もっと解りやすい 噺、コンビニが出てくるとか のほうがいいと言われた。どうだろうか。分かれ道かもしれない」

・好きな新作は百栄師匠の『愛を喩えて』 

・なんかないですか。ほめてください。

・女性客から「声がいいですね」え、僕のまくらの話じゃなくてマジですか。(褒められているのにテンション落ちている)

・好の助「鯉八ファン手を挙げてください」小痴楽「あれさっきより減ったんじゃね」

・(ここまで1時間)

・天才だなと思う人 さっき声がいいといった人上げてない!

・初めて聴いた客「ファンになりました。もともと鯉昇師匠のファンで」→「うちの師匠は凄いですよね。評価まだまだ低いですよ。師匠みたいになりたくて入門したけど師匠みたいにやろうとすると受けない。やり方変えたら受けた。真似するのは無理だと思いました」

・女性客から「毎回来るたびになんか引っかかるんから、すごいなあと。今日はタミコが来るなあと」→「タミコ人気なんですよ。タミコがいるから今ここに呼んでもらってるんで」

・女性客から「バッジで牛がタミコにブスって言ってますよね」→「あ、そだ、話変わっちゃいますよね」

・女性客から「鯉八さんは創作面で評価されているけど、この前の林家きく麿師匠とのネタ交換で演じるほうも凄いと思いいました。他のお客も、実は演じるほうが凄かったんだと言う声が多数でした」(4kも同意 拍手多数) 

・(めちゃくちゃ照れて)「台本がいいと言われていたんですね、僕は」「ここで終わるべきなんだけどもう一人聞きましょう」

・客から「自我が目覚めた という台詞が良かった」

・「受けなくてもいいんですかねえ。」→好の助「この台本の受けどころにチェックして最後『暴れ牛奇譚』やってもらって、みんなそこで笑おう」→「その笑い声で僕が乗ってきたらベストの『暴れ牛奇譚』を味わっていただきましょう。ほんとにシルシつけたところで笑ってくださいよ?」

・客席にペンが配られる

・楽生「でも先生今日面白かったと思うんですけど。袖でずっと笑ってましたよ」。好の助「あのね、声に出して笑うんじゃなくて、ずっと口に出さず、にやにやする感じなんだよ

・「僕は笑い声にこだわりすぎなんですかねえ。」→4k「そう!」
 
・楽生「この雰囲気は滑ったって雰囲気じゃないですよ」
・「僕もねえ、口では滑った滑ったって言ってたけど、実はそれほど滑ったとは思ってなかったんで
・小痴楽「なんだよそれ、嘘かよ今までのは。ふざけんじゃねえよ!」 

・ここまでで1時間10分 客に笑いどころで笑ってもらう予定調和演出についての相談が続く

・「米朝師匠は客のないところで録音したCDで笑い待ちしている。そこがダダすべりしている

・台本に沿って「冒頭の「あなたの前世むむむ」 で、3人笑ってください。一番前の方」「ここで中笑い、ここで爆です」という割り振りが続く。

・つらいお願いですけど、最高の『暴れ牛奇譚』をみなさんで作りましょう!

途中から「受けない落語家・鯉八はどうしたらいいのか。みたいな話になっている。
実はこれ自体が虚構で、鯉八さんが「受けない落語家」を演じている。
それがちょっと暴走してしまった感じ。最後のほうで小痴楽さんが激怒したのもそのせい。

話の流れでもう一度『暴れ牛奇譚』をやることになり「落語家が前もって指示した通りに客が笑う落語」へと突入する。これは、同じ落語を二度聞かされる客に対する鯉八さんのサービス精神とも解釈できるけど。


仲入り


●瀧川鯉八『暴れ牛奇譚』
流石にこの企画は失敗だと思った。 だってさっき聴いた噺で、台本読みながら落語聴いて、指示されたところで笑えってんですよ?だらだした1時間28分のトークの後に。

ところが、面白かったんですよ。これが。

笑えと言われたポイントで(もともとそこで笑ってるんだけどね)義務的に笑っている自分が、他の客の様子が、もう面白くてしょうがない。結果ポイント以外でも笑ってしまう。

つまりこれが落語におけるラディカリズムともいうものなのでしょう。
「客は落語空間を構成する重要な一部である」という本質を、もっとも過激な形で、鯉八さんは示したのだ。
(米朝師匠のCDの話は、その伏線になっている)

 
堀井憲一郎氏が名著『落語論』で指摘した「落語とはにおいてストーリーは本質ではない」という考え方を、「一生懸命積み上げた物語が、けっきょくなんにもなかったことになる落語」が『暴れ牛奇譚』で、『鰍沢』など多くの「エーなんでこんな落ちなのー」と言われそうな多くの名作古典落語と実は通底している。

そして、しっかり練られたストーリーが主役となる講釈種や、練られたストーリーの最後にピタリとはまる落ちを持つ『芝浜』からは遠い。
だから『暴れ牛奇譚』が受けなかったとき鯉八さんは「芝浜というお噺でした」と破れかぶれに言うのも、そのせいだ。

「ストーリーではない落語の本質」については『落語論』を是非お読みください。
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この異常な高座を終えて、高座の上で鯉八さん曰く「今の客席、高座から見ていて、すごく気持ち悪かったです。教祖とはこういうものなのでしょう」。

そして、この異常な落語会の後、何が起きていたか。


けっこう好評だったりするわけですよ。ブログにこんな小理屈並べるオッサンじゃなくても、鯉八落語は十分楽しい。

「受けない」「滑った」とこぼしつつ、実は鯉八さんは客をつかんでいる。
ただバラつきはあって深夜寄席だと75%が受ける落語も、浅草演芸ホール夜席だと40%くらいになる。
しかし、笑ってなかった60%も、そのうち半分以上は、笑ってないけど引き込まれ、呆気にとられ、いまのはいったいなんだったんだろうと衝撃を受けている。
その「衝撃を受けた人たち」の気持ちは、『暴れ牛奇譚』のなかで占い師の言葉に呆気にとられる客の気持ちとシンクロしてしまう。ほんとに凄い落語なんだよ『暴れ牛奇譚』は。

過激に落語の本質に迫る鯉八さんの落語は、おそらくこれからさらに変化し、より多くの人から支持されるようになるだろう。落語が大衆演芸であり、鯉八さんがその本質に迫っている以上、そうなるはずだ。

でも、さらに多くの人に支持されるようになっても、鯉八さんは「受けない」「売れない」とぼやき続け、「宮治さんのほうが面白い」とひがみ続けるのだろう。まるでウディ・アレンや西原理恵子のように。

ま、でも、ここまでのラディカルな企画は、もうこの一回でいいや。初心者や普通の寄席愛好者は入りにくい世界だし、1時間28分はおなかいっぱい。


言えることは

鯉八さん有難う。そしてごめんなさい。

もう少しうまくできた。

だけど、今日あった落語会の中では一番だったと胸を張って言える!

てか、今かわら版みたらこの会載ってなかった。
連絡し忘れたのかな?

さらにごめん鯉八さん。

クソ!

ご来場有難う御座いました|好の助の宣伝ブログ 
好の助さんもお疲れ様。

あと、この記事全部読んだ皆さんもお疲れ様でした。 書いたあたしもくたびれた。

●関連リンク
両国エンチョウ寄席「鯉八塾」: ひらめ庵 

m_shike at 16:48コメント(2)トラックバック(0)落語 | 生落語感想 

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コメント一覧

1. Posted by ますめっど   2013年10月21日 00:19
小ゑん師匠が無限落語に「全然違うから」と言ったような理由で呼んでまして、ワタクシそこで初めて生で鯉八さん見た訳なのですが、そこでやってたのも、「暴れ牛奇譚」
鯉八さんの噺はなんどでも聞きたくなる。
そんな感じです。
2. Posted by 4k    2013年10月21日 01:50
> 小ゑん師匠が無限落語に「全然違うから」と言ったような理由で呼んでまして、ワタクシそこで初めて生で鯉八さん見た訳なのですが、そこでやってたのも、「暴れ牛奇譚」
> 鯉八さんの噺はなんどでも聞きたくなる。
> そんな感じです。

小ゑん師匠流石ですね。僕もいわゆる円丈チルドレンとは全く違う位相で落語世界を創り上げていると思っています。
何度でも聴きたくなります。

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