2010年12月26日
ネットで成功しているのは〈やめない人たち〉である
・考察の過程をこれでもかと言うほど丁寧に記述してある。
難を付けるとすれば、丁寧すぎる。事実とそれに対する考察がきちんと記されていれば、ここまで過程の一つ一つで文字数を使わなくても良さそうに思える。
・統計で何かを読みだそうとしているがサンプルの手法から考えて根拠が薄い。結局ここでアンケートに回答した人たちは、この社会においてどのようなポジションにいる集団なのか、はっきりしない。だから追試ができない。
じゃあこの本は駄目なのか。
とんでもない、これでいいのである。
作者はどう考えているか知らないけれど、僕はこの本を一つの文学として受け止めた。
取材をもとに小説を書くのはふつうの行為だが、作者はそれをアンケート&インタビューという手法で代替した。そして、いきなり冒頭にアンケート結果をすべて表で提示するという斬新な手法を繰り出した。
その後の、アンケートを元にして論考を進めていく過程も、論そのものよりも作者と社会、作者と世界の関わり方を作者自身が「書くこと」で探り当てようとする文学的アプローチと考えると合点が行くものだ。
「やめない人たち」は、この世界における作者自身の位置測定のためにキャスティングされているだけで、サンプルの統計的妥当性などもはやどうでもいいし、また思考の過程を丹念に記述すること自体が、この著作の目的なのだ。
作者の頭に浮かんだ謎が解け、世界と作者の関係が(暫定的にでも)イメージとして浮かび上がれば、それは「文学的」価値なのだ。
この世界を読み解く上で、社会科学よりも文学が機能することは、よくあることだ。
というわけで文学史においてもこの本は一つの事件であり、十年後くらいに再評価されることも大いに考えられる。
とまあ、これぐらい思い切って書いておけば、他ブロガーの書評とかぶらないかな?